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社長メッセージ (統合報告書2018より)

1.社長就任1年を経ての所感

 この1年間は、当社グループとステークホルダーとの関係性をあらためて認識できた、非常に貴重な時間となりました。そして、兼松を社員やその家族が誇れる企業にしたい、企業価値を高めて社会貢献ができる企業、世界経済に寄与する企業グループでありたい、という就任時に誓った決意は変わっていません。特に当社および当社グループの社員の皆さんが兼松グループの一員であるという「誇り」を持つことは、一人ひとりが社会的な責任を果たすという意識を心に刻むことにも繋がると思っています。 この1年で大いに実感したことは、社員が生き生きとして元気があることです。これは、当社グループの成長のポテンシャルが大きいことを表わしていると思います。また、多くのお取引先や関係者との繋がりが深く、長年にわたって信頼を築いてきていることもあらためて実感できました。これは当社の大きな強みであり、またこのことから当社グループがお取引先のお役に立っている、結果的に社会のお役に立っていることを強く感じることができました。

 社長としての私の役割は、成長の道筋を鮮明にし、機能的なビジネスモデルを構築することだと認識しています。さらに、商社は常に新しいビジネスを創造していかなくてはなりません。そのために、教育制度の充実を図り、人材を育て、新たな付加価値を提供するビジネスの創造へと導かなければならないと考えています。



2.兼松の現状と課題について

 総合商社である当社の使命は事業創造による社会への貢献であると捉え、企業活動を行っております。また、当社は、資源への投資はしないがその他の幅広い事業分野を活動のフィールドとしているユニークな存在であり、それを強みとして兼松ならではのビジネスを展開できると考えています。テクノロジーの進化により社会のニーズや生活習慣が変化していくこと、さらに日本国内の人口減少や市場縮小が進み従来のトレーディング業務が大きな転換期を迎えることは明らかです。商社の基本であるトレーディングに軸足を置いたビジネスモデルを展開していますが、市場動向を注意深く読み解きながら、AIやIoTなどに代表される先進技術を軸とした事業の発掘にもより注力していく必要があります。こうした事業分野の拡大により、専門性の高い領域を多数有する企業グループでありたいと考えています。商社の普遍的な経営課題は事業創造に尽きます。商品サイクルや技術革新、市場の動きを敏感に捉え、成長の種を見つけ出し、新しい事業を創造し続けることが鍵となります。創意工夫がとても重要と言えます。

 当社は長期にわたる経営基盤再構築で事業創造のスピードがやや鈍化していることが経営課題のひとつでもありました。市場の変化やニーズといった時流を的確に捉えていくためにも、事業創造に向け社員一人ひとりが創意工夫する熱意の醸成、新たな事業を生み出す開拓者精神を持った企業風土の復活を図っています。

一方、収益や財務の安定性が確立された現在、さらなる成長のための投資拡大へと舵を切っていますが、この状況に経営層も社員も浮かれることがあってはならないと思っています。内外の政治や経済はめまぐるしく動き、市況の変動もあり、少なからずビジネスに影響を与えます。足もとをすくわれないよう一人ひとりが意識のゆるみのないようにしていく必要があります。併せて人材教育の徹底を図ることも重要です。不十分な教育がリスクを生むからです。

 2019年3月期からは、6カ年の中期ビジョン「future 135」 を開始し、基盤事業の持続的成長を図るとともに、事業投資による規模拡大や付加価値向上による利益増大を目指して取り組んでおります。当社グループの成長への方向性と思いを、この中期ビジョン「future 135」に込めました。

3.2018年3月期の業績の評価

 2018年3月期は、内外景気の良好さに後押しされたこともあり、日本の多くの企業が好業績でした。当社グループにおいては、特に、専門性の高い分野に注力したICTソリューション事業、子会社同士の統合効果が期待以上に顕現したモバイル事業、そして原油価格の上昇により回復した油井管事業が好調でした。その結果、前期と比べ増収増益、親会社の所有者に帰属する当期純利益は、前期比102.7%増加の163億円となりました。

 親会社の所有者に帰属する持分※1も、利益剰余金の積上げなどにより1,160億円まで増加し、その結果、親会社所有者帰属持分比率※2 は22.3%、ネット有利子負債資本倍率(ネットDER)は0.5倍となり、財務の安定性も維持しています。 これまでグループ一丸となって取り組んできた戦略への一定の結果が出たと評価しています。ただしこれは、まだ成長への道筋に過ぎません。海外の政治の不安定さも増しており、いつ何が起きてもおかしくはない状況です。ここがスタートラインだと思い、さらなる緊張感を持って着実に歩みを進めていきます。

(注) 当社グループは2017年3月期より、国際財務報告基準(IFRS)を適用しております。
※ 1 日本基準の「自己資本」 ※ 2 日本基準の「自己資本比率」


4.1年前倒しで利益目標を達成した「VISION-130」の総括

 2014年4月から開始した前中期ビジョン「VISION-130」では、連結当期純利益150億円を最終年度(2019年3月期)目標としていましたが、2018年3月期実績で163億円となり、目標を前倒しで達成できました。その主要因は、連結経営の成果だと思っています。特に、電子・デバイスセグメントのICTソリューション事業とモバイル事業のこの数年の成長は著しく、また高利益率を維持しています。モバイル事業においては、2016年に携帯販売代理店である株式会社ダイヤモンドテレコムを取得するという大型買収を行い、2017年に従来の子会社である兼松コミュニケーションズ株式会社と合併しました。この経営統合による効果が期待以上に顕現しました。まさに当社がコントローラーとなり、グループ会社が実務を担当するサプライチェーンとしての連結経営の構造確立が奏功しています。例えて言うならば、当社が漁師として素材を提供し、グループ会社で手の込んだ料理としてお客様に提供するという連携ができてきたということです。

 このように、「VISION-130」では、狙いを定めた領域で成果を出し、収益を上げるように取り組んできた分野で結果を出すことができました。事業分野によって浮沈はあるものの、資源権益への投資などを行わないことで、安定的な収益構造が実現できています。また、ROE15.1%、ネットDER0.5倍、自己資本比率22.3%といった指標が表すように、財務構造も安定的な水準を維持しています。これからの課題は、より一層、市場環境に左右されない収益構造の確立が不可欠だとあらためて気持ちを引き締めています。

5.「VISION-130」での各事業への評価

 電子・デバイスセグメントの兼松エレクトロニクス株式会社が展開するICTソリューション事業では、一層の収益性向上に向け、専門知識やノウハウと付加価値のあるサービスの提供を推進しました。専門性の高さと、連結経営の構造が順調に機能し、業績に大きく貢献しました。また、モバイル事業では、先に述べたように兼松コミュニケーションズとダイヤモンドテレコムの統合が規模拡大に寄与しただけでなく、統合による相乗効果が期待以上にあがり、さらなるシェア拡大へと順調に駒を進めています。

 食料セグメントは、当社グループにとって安定的な収益基盤となる事業のひとつです。中でも食品事業は創意工夫による付加価値が必要となり、当社のユニークさを発揮できる分野のひとつでもあります。また当社の食糧事業は長い歴史の中で培ってきたノウハウを蓄え、着実に収益を上げることが可能な事業であるとともに、日本の食市場にとっても重要な役割を担っていると自負しています。市況に対する目利き・ノウハウを蓄積することにより、その変動リスクをいかにヘッジするかがこのビジネスの醍醐味でもあります。気候変動による市場の移動もあるので、新しい供給元を確保していくことも大切です。

 鉄鋼・素材・プラントセグメントは、関係会社との連結経営が強みであり、複数の分野にまたがる事業連携も強みのひとつとなりました。2018年3月期に原油価格の上昇により北米における油井管事業が大きく改善したこと、機能性化学品事業などの専門性の高い分野での強みが発現し、収益拡大に貢献しました。

 車両・航空セグメントでは、地域性や顧客のニーズに対し、豊富な情報量を駆使した提案型、課題解決型のビジネスモデルが強みです。自動車のネットワーク化(コネクテッドカー)や自動運転といった次世代自動車市場での事業拡大、宇宙事業への新規事業参入など、順調に進んでいます。

 新機軸として挙げた技術支援については、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、セキュリティ事業の分野などでこれからの成長に期待しています。

「VISION-130」目標と実績

6.次なるステージに向けた成長シナリオ新中期ビジョン「future 135

 「future 135」は6カ年の中期ビジョンで、最終年度である2024年3月期の目標は連結当期純利益250億円、ROE13~15%、総還元性向25~30%です。当社グループは、持続的な成長企業でありたいことに変わりはありません。そして収益の拡大をステークホルダーへ還元することで、社会貢献を果たしていく企業でありたいと考えています。社会の役に立ち、なくてはならない存在であるために、中期ビジョンの目標はゴールではなく、持続的成長のひとつの通過点として捉えています。

 当社グループは、2000年代の経営の選択と集中を進める中で、資産と有利子負債の圧縮で財務基盤の充実が図れた一方、資産や事業の過度な整理も行ってきたと感じています。そうした時期には、役員、従業員の開拓者精神が削がれ、商社としての存在意義を問われかねないと危惧していました。しかしながら、昨年の社長就任後、多くの従業員、パートナーの活気ある姿を目の当たりにし、創業時の開拓者精神を取り戻す時が来たと実感しています。

 これまでに確立した健全な財務基盤を維持、強化しながら、得意分野の深化に注力し、これまでに無い新しい技術によるビジネス構築に挑戦することで、積極的な事業拡大や事業創造を進めていきます。それには、事業運営や投資に際し、厳しい見極めができる機能的な企業統治の運営と、創意工夫を常とする企業風土の実現、さらに事業創造を実現できる仕組みの構築が不可欠であると考えています。

7. 新中期ビジョン「future 135」の重点施策

I. ひとつ目の「基盤となる事業における持続的成長と、事業投資による規模拡大」については、既存事業が当社グループの収益の基礎であることに変わりは無く、これまでどおり既存のビジネスは持続的に確実に成長させます。日本の食を支えている食糧事業などが代表的な例です。今後、テクノロジーの進化やニーズの変化により淘汰される事業と新たに生まれてくる事業の入れ替わりが図られる中、既存事業の拡大には特に創意工夫が必要と考えています。技術革新による効率化など投資機会が増える可能性もあり、取りこぼしが無いよう事業連携を進め、また適切な投資、知見の深い分野での企業買収の活用による規模拡大を考えています。今回打ち出したビジョンは6年というめのスパンであるため、それぞれが一定の目標、例えば既存事業の収益を2倍に拡大するようなイメージを持ち、その目標のために何をすべきかを考え、取り組む必要があります。

Ⅱ . 次に、IoT やAI などに代表される「技術革新への対応」は、当社グループの将来を築くための欠かせないキーワードです。あらゆる分野でIoT等の新しい技術の応用や融合が進んでおり、構造の変革が求められる中、電子・デバイスセグメントでは新たなテクノロジーによる付加価値の高いビジネスモデルの提案に注力していきます。さらに、これからの商社は事業領域に関係なく、横断的な付加価値を創造していかなければなりません。先端技術を有する部門と、別の部門やお取引先との連携を推進し、広範な事業領域を超えた連携による事業創造を一層強化していきます。今年度からは、先進技術・事業連携統括担当役員を設置し、技術革新への対応による事業創造を加速させ、さらなる成長の柱として育てていきます。社会の動きとともに新たなビジネスを構築することで、当社グループの使命を果たしていきたいと考えています。

Ⅲ . 3 つ目の「持続的成長を実現するための経営インフラ確立」については、全ての基本は人であると認識しており、そのためにやるべきことは多くあると思っています。まずは、経営人材の育成が急務であり、研修の新設や、従業員の質の向上を目的としたその他教育を充実させます。また、従業員満足度(ES)を高めるための施策や働き方改革も実施していきます。一人ひとりが異なる価値観を持っているので、全員が100パーセント満足という結果を導くのは非常に難しいことです。しかしながら、仕事にやりがいを見出し、そのための創意工夫を楽しむような仕組みをつくり、コミュニケーションを活性化しながら運用していくことが重要です。さらに、グローバルビジネス拡大に向け、主要海外拠点における専門的な事業会社数の拡大を目指します。そのための社内制度の充実も図っていきます。これは中期ビジョンの前半で完了させる予定です。さらに、経営のおかれた状況やリスクを計量的に把握するシステムも導入していきます

8. 事業別の成長イメージ

 「future 135」では、既存事業の持続的成長に加えて、規模拡大のための投資と付加価値獲得のための投資を実行して、さらなる成長を目指します。事業投資による規模拡大は、顧客・市場・シェアの拡大を図ることが目的で、グループ全体にわたる目標ですが、現時点では、競争力の高い事業領域を多く抱える電子・デバイスセグメントでの投資に加えて、もともと強みを持っていた鉄鋼・素材・プラントセグメントの機械、化学品事業へのてこ入れも必要であると考えています。付加価値の獲得による成長分野としては、主として食糧、食品、鉄鋼などの既存ビジネスへの機能追加を考えています。

 事業別には、まずICTソリューション事業では、今後も強みを活かした持続的成長を目指し、安定収益の基盤とします。電子部品、半導体事業およびシステム機器事業では既存事業の再編を行い付加価値の獲得を図っていきます。モバイル事業では、前中期ビジョン中にM&Aでの成果を出しており、こうしたノウハウを武器に一層の規模拡大を進めるとともに、販売店の収益力強化によりさらなる効率化を図っていきます。食料セグメントでは、畜産事業の規模拡大と、アジアにおける食市場で構築したバリューチェーンインフラに、さらなる付加価値を見出し深掘りしていきます。鉄鋼・機械プラント・エネルギー・化学品といった事業分野では、規模の拡大に向けた投資が不可欠です。これまで以上にスピード感を高め、次の時代の柱事業のひとつとして確立していきます。車両・航空セグメントでは、航空部品事業の規模拡大と、宇宙関連事業での強みのある領域の拡大やニーズを捉えた分野の開拓を果たしていきます。

 そして、未来への種まきであるイノベーション投資については、AIやIoTといった先端技術を軸として、部門を超えた連携を実現しながら新規事業の創出に向けて加速していきます。

 なお、投資については、継続した成長を目指しつつも、決して将来の負担になるような投資を行わないよう、慎重に吟味して実施していきます。そのためにも、投資基準による投資判断を厳格にしつつ、自らの専門分野を能動的に選定し狙いの精度を研ぎ澄ませていきます。

9. 経営基盤について

 コーポレート・ガバナンスにつきましては、段階的に強化を進めております。2019年3月期より取締役に対する業績連動型株式報酬制度を導入しました。取締役の報酬と当社の業績および株式価値との連動性をより明確化することで、株主、投資家の皆さまとの価値共有をより意識して参ります。また、当社には専門分野の異なる社外取締役3名がおります。それぞれの経験に根ざした活発な議論や提言を踏まえ、効率的に機能していると感じています。

 中期ビジョン「future 135」の重点施策にも掲げたとおり、経営人材の不足に危機感を持ち、戦略的な育成を推進していきます。当社グループの根幹としてダイバーシティの考え方は深く浸透しており、多様性を認めた上で、必要な人材を育て活用していくという土壌があります。役職者層だけでなく、男女の隔てなく30代以下の若手にも、それぞれの適性に沿った規模のマネジメント教育を施していく予定です。お取引先から、「兼松にならビジネスマネジメントを任せられる」という信頼を勝ち得ることが、今後の商社としての在り方を方向付けることになります。

 また、当社グループは、企業理念の中で「会社の健全なる繁栄を通じて、企業の社会的責任を果たすこと」を掲げており、広く国際社会に目を向け、事業を通じて社会的課題の解決に挑戦し、社会に貢献していきたいと考えています。持続可能な開発目標(SDGs)も踏まえ、他の商社が手掛けない兼松ならではの分野で、社会の動きや課題解決に根ざした領域の深掘りを促進しています。そうした領域でのニーズを収集していくことで事業を開発し、雇用を創出したり、お取引先の先にある消費者への影響を思うとき、当社の社会的責任を実感します。今後も企業価値を向上させ、兼松ならではの社会貢献に努めていきたいと思っております。

10. 2019年3月期の見通しと、ステークホルダーへのメッセージ

2019年3月期の連結業績は、収益を前期比6.3%増の7,600億円、営業活動に係る利益は前期比14.7%増の300億円、親会社の所有者に帰属する当期純利益は前期比1.1%増の165億円を計画しています。

 また、当社は株主の皆さまへの利益還元を経営の最重要課題であると認識しており、2014年3月期に復配して以来、毎期増配を継続しております。「future 135」では総還元性向の目標を25~30%と掲げました。引き続き守りと攻めのバランスをとりながら、確実な成長を軌道に乗せ、継続的に株主の皆さまへの責任を果たして参ります。

 これからの当社グループは成長路線を大きく打ち出していくことになります。安定した財務基盤を背景とした投資も実行していくつもりですが、リスクの検証を十分に行うことが前提です。その上で、大胆に前に踏み出す、そして、その成果は、ステークホルダーの皆さまに還元していく方針です。地に足の着いた真摯な経営を実践していくことをお約束するとともに、今後もステークホルダーの皆さまからの期待にお応えすべく、企業価値の向上に取り組んで参ります。

以上

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