IR [投資家情報]

社長メッセージ

(統合報告書2022より)

不確実性の時代にこそ
社会を変える原動力として
兼松は機能していきます。






代表取締役社長

宮部佳也

就任から1 年の実感

 社長就任から1年の間、多くのステークホルダーの皆さまとお目にかかり、幅広い領域のサプライチェーンに携わるお取引先との強い絆こそが、当社グループにとっての最大の財産であることをあらためて実感しました。その関係を維持し深めるためには、「公明正大、謙虚な心、誠意をもって日々の業務を取り計らうことで信頼を積上げていく」「信頼が助け合える仲間をつくり、ひいてはビジネスチャンスを広げていく」ということが基本だと感じた1年でした。

創業主意が常に根底にある経営を

 昨今、地政学的リスクのみならず、あらゆる産業におけるデジタル化といった社会構造改革の進展や、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に代表される世界的規模の課題解決に向け、企業が社会をリードしていくことが求められています。そのような中、当社グループの存在意義とは何かをあらためて考えると、やはり「創業主意」に普遍的な価値観を見出します。開拓者精神と創意工夫をもって、事業活動を通じて社会的な課題を解決し、社会と共有できる価値を創造するというCSVの概念にも通じるものです。この創業主意を今の時代に照らし合わせて私の言葉にさせていただけるならば、Commitment to people----人に貢献すること、Commitment to earth----環境に貢献すること、この2つなのかと思います。

 当社グループは、豊富な非財務資本を蓄積してきました。中でも社会的使命を優先する企業風土が、我々の誇りであると言えます。例えば、一橋大学の兼松講堂は、日本に商業専門の学問を根付かせるという構想のもと、1927年に当社より寄贈いたしました。また、前年に亡くなったすべての役員・従業員の物故者法要を現在まで続けていることなど、社会と人を大切にしてきたDNAが脈々と受け継がれています。こうした風土や人材といった非財務資本を武器に、未来へ飛躍する兼松像を描くことができると考えています。

兼松グループの4 つの強み

 当社グループの存在意義を証明する我々の強みとは以下の4 つに集約されます。これらをより強固にしていくことが、現在取り組んでいる中期ビジョン「future 135」の目標達成のみならず、創業主意にも応えていくことにほかならないと考えています。

強み1 商いで培われた強固な顧客基盤とビジネスノウハウ

 時代によって商社に求められる役割が変化する中で、当社グループは130年を超える歴史において、多くのパートナー企業と共にお取引先や社会のニーズに応えてきました。それによって蓄積した顧客基盤と知見やノウハウが、当社グループの第一の強みです。

強み2 安定した財務基盤と収益構造

 当社グループは、化石燃料や不動産、金融ビジネスなどへの投資は行っておらず、商品市況や金融市場、世界情勢に左右されにくい収益構造にあると言えるかと思います。また、2000年代初頭の選択と集中以降、資本の増強や有利子負債の圧縮を進め、経営資源の集中による筋肉質な経営を目指したことにより、安定した財務基盤も整えてきました。パンデミック、地政学的リスクの顕現などで先行き不透明な昨今の状況下においても当社の業績への下振れボラティリティは小さく、今後も、フリー・キャッシュ・フローを意識し、財務バランスも健全なレベルに保ちながら、効率の良い事業投資を進めていきます。

強み3 資本効率性重視の経営力

 「future 135」では、ROEの目標値を10~12%の範囲と設定し、コロナ禍により一時未達となったものの2022年3月期は10.5%と回復しています。引き続き、価値を創造することにより当社の役割を向上し、更なる改善に取り組んでいます。また、ROEの操作目標として投下資本利益率(ROIC)による経営を進め、資本コストを意識した経営を行っています。

強み4 事業創造にチャレンジする人材と促進する投資制度

 当社グループは、多様性から生まれるイノベーションを競争力に変えるべく、人材戦略を最も重要な経営要素と捉えています。すでに、2022年新卒採用社員の半分以上は女性で、外国籍社員の割合も増加しています。また、従来実施している海外支店やグループ会社での現地採用などに加え、キャリア採用やダイバーシティ採用を活用し、グローバルにグループ全体で人材を活かすことが可能になってきました。

 投資につきましては、「future 135」で発表しているとおり3 つの成長イメージがあります。「従来の商社の枠を超えた役割を担うことで付加価値を提供するための事業投資」「知見のある得意分野に集中する規模拡大のための事業投資」そして、「先進技術を軸に次世代の事業を創出するためのイノベーション投資」です。これら3つの投資により、グループ全体にシナジーが発現し、長期的には現在の目標を遙かに上回る成長を視野に入れています。

future 135」の進捗:後半の1年目を終えて

 「future 135」後半の1 年目である2022年3月期は前期比増収増益となりました。第4四半期における物流の混乱、円安・物価上昇の影響などもありましたが、親会社の所有者に帰属する当期利益は前期比20.1% 増となり、一定の評価をしています。しかしながら、当初に思い描いたスピードには達していないと言わざるを得ません。最終年度である2024年3月期目標の当期利益200億円については、2023年3月期見通しの180億円には具体的な裏付けがありますが、残り20億円はイノベーション投資を含む3つの投資が機能することが要となります。これからの2年間は、今まで以上に投資へ注力し、収益化を加速させていきます。

future 135」の進捗:コングロマリットプレミアムへ向けた投資の実現

 これまでは、部門ごとの事業投資やM&Aを展開してきましたが、昨年から、各部門長、主要グループ会社の代表が定期的に情報交換をし、他部門のリソースを活用した既存ビジネスのバージョンアップや利益拡大への議論を重ねています。当初は、他部門の利益のために動いてくれるのかという若干の危惧はありましたが、それは杞憂に終わりました。活発な意見が交わされ、自身の部門の利益だけでなくグループ全体のために積極的に行動する姿勢を見ていて、これこそが当社グループの真骨頂だと認識しました。兼松グループ社員は、お取引先からその人物を評価されることも多いのですが、この力を集結すれば大きな飛躍に結び付けることができると確信しました。最初は部門ごとの課題解決を手助けするというスタンスであったとしても、近い将来に部門の垣根を越えた事業が続々と湧き出てくると期待しています。複数のビジネスを組み合わせ束ね、新たな事業として形作ることは商社が従来手掛けてきたことです。加えて、当社グループはコンサルティング業務を主体とするのではなく、実業でネットワークを築き知見を蓄えてきた強みがあり、"ハブ"としての機能を十分に果たすことができます。

 イノベーション投資につきましては、「future 135」策定当初から部門ごとではなくグループ全体として情報やネットワークの共有を図るため、グループ会社を含めた「先進技術・事業連携チーム」を組成し討議を続けてきました。2021年10月には「イノベーション投資制度」を新設し、「future 135」の最終年度である2024年3月期までに40億円の投資枠を設定しました。革新的な技術やビジネスモデルなどを有する事業化の途上にある企業や事業を発掘し、単なる資金投入だけでなく、商社の持つネットワークやノウハウをもってビジネスモデルを補完するスキームを構築していきます。先進技術や新たなビジネスに積極的に触れる機会を増やし、オープンイノベーションなどを通じ、社内外との強固な関係性をドライバーとして将来の成長の芽を育成していきます。

不確実性の時代は商社の力の試しどき

 商社は元来、変化を誰よりも先に察知し、自らの姿を変化させながら、新しい時代を切り拓いていくことに長けています。そういう意味では、変化の激しい今は、商社にとって大きなビジネスチャンスです。例えば、米中対立や戦争、コロナ禍などにより寸断されたグローバルなサプライチェーンを一から作り直さなければならない状況、さらにはDXによる産業構造の変革など、仕組みを一から創り上げなければならないときこそ商社が真の力を発揮するのです。不確実性の時代に当社グループが社会になすべきことは、経済の安全保障への貢献であると考えています。

 そのためには、どこよりも先に商社が市場の動きや情報を得ること、そして嗅覚とでもいうのでしょうか、新しいビジネスを発掘する目利きの力が重要です。お取引先の事情を常に把握してそこからアイデアを生み出し実現していくような、能動的な性質を持つ商社パーソンを確保・育成することが必須です。私の信条は、まず動いてみることです。役員も社員もリスクを恐れずにもっともっと動いてほしいと感じます。動きながら考えるという習慣を持たないと、この時代を乗り切ることはできません。今はPDCAサイクルを順調にこなすだけではなく、アジャイル経営のように市場環境や産業構造の変化にスピード感をもって対応できる企業にならなければならないのです。

 「future 135」に続く次のステージは、兼松が商社として飛躍的な成長を遂げるため、DX、GX、そしてイノベーションをキーワードにグループ全体の英知を結集する時だと考えています。

多様性を武器にした人材育成とエンゲージメントの向上

 2019 年に開設した研修制度「兼松ユニバーシティ」は、若手の頃から経営を基礎から学ぶとともに、商社パーソンとしての人格形成に関わる文化的カリキュラムに至る独自の制度です。また、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を実現するための労働環境の整備や、従業員のエンゲージメント向上に向け、現在、人事制度の改定を行っています。

 一方、従業員のエンゲージメント向上については、情熱を傾けられる仕事を持てるかどうかに尽きると思います。例えば、新規事業創造はリスクが隣り合わせであり、若い世代は躊躇することもあるでしょう。そこで、失敗を恐れずチャレンジできる仕組みを会社が整えることが重要なのです。ベンチャーキャピタルのウエルインベストメント株式会社と業務提携し、他社との協業による事業創造を経験することは、社員のモチベーション、エンゲージメントを向上させる良い機会になると思います。

DX推進の進捗と今後

 2021 年にDX推進委員会を発足し、ICT ソリューション事業を擁する電子・デバイス部門長を委員長に、グループ横断でのDX推進に取り組んでいます。加えて、個別テーマごとの分科会では、実務レベルの課題に対処する機能もあり、グループ全体での方針と、実践に向けた戦術の両輪で推進しています。

 業務のデジタル化については概ね目途がついています。この11月に予定している本社移転でもABW※の活用などで大きく進展します。また、ビジネスモデル変革を視野に入れたデジタル活用については、当社グループのビジネスデータをプールするシステムが稼働しています。現状は、幅広い事業領域のデータの洗い出しを行う段階ですが、今後は情報資産の基盤としていきます。

※ Activity Based Working:業務内容や目的に合わせて自由に働く場所や時間を選択する働き方

GX推進とTCFDは体制整備を完了

 2022年にGX推進委員会を発足させ、環境保全への知見が豊富な鉄鋼・素材・プラント部門長を委員長として任命しました。また、2021 年にTCFD 提言への賛同を表明し、シナリオ等情報開示を実施しました。当社は資源開発を行っていない商社であり、もともと温室効果ガス排出量が少ないことに加え、早い段階から森林保全プロジェクトや温室効果ガス削減への貢献に対するクレジット(排出権)を獲得してきたこともあり、2025年に温室効果ガス排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)を達成する見込みです。2030年までには排出量を上回る削減効果を実現する「カーボンネガティブ」を目指すことを公表しています。

コーポレート・ガバナンス体制の強化を継続

 コーポレート・ガバナンスについては、「future 135」の最初の3年間で取締役会を機動的かつ効率的な体制に整備し、経営の監督と執行の分離を進めてきました。2022年7月には社外取締役比率を向上させるとともに、これまで課題であった企業経営経験者の選任を果たすことができました。今後も引き続き、体制の強化を図っていきます。

ステークホルダーの皆さまへ

 懸念される世界経済の減速要因はありますが、2023 年3月期の連結業績は、収益を前期比10.7%増の8,500億円、営業活動に係る利益は7.3%増の315億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は12.6%増の180億円を計画しています。また、配当については、株主の皆さまへの利益還元を経営の最重要課題と認識し、継続的かつ安定的な株主還元をさせていただきます。2023 年3 月期の年間配当は1株当たり70 円(配当性向32.5%)を予定しています。

 不確実性の時代にこそ変化や失敗を恐れず、商社・兼松グループならではの付加価値とは何かを常に考え、お客さまや社会の要請を素早く的確に察知できる嗅覚を磨き、知見・ノウハウを蓄えることで一人ひとりの質の向上、そして兼松グループの企業価値向上に取り組んで参ります。

以上

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