IR [投資家情報]

社長メッセージ

(統合報告書2021より)


 2021年6月に代表取締役社長に就任いたしました。2024年3月期を最終年度とする6ヵ年の中期ビジョン「future 135」の後半の目標達成に向け、当社グループの創業者である兼松房治郎が宣言した創業主意に立ち返り、企業価値向上に努めて参ります。


代表取締役社長
宮部佳也

1.託された想いに応える経営を

 まず、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けた方々にお見舞いを申し上げるとともに、社会基盤維持のために尽力されている方々に感謝の意を表します。

新型コロナウイルス感染症拡大のパンデミックの終息が見えない中、気候変動をはじめとする脱炭素社会へ向けた活動や、デジタルトランスフォーメーション(DX)による改革の波も押し寄せ、世界全体が大きく動き始めていることを実感しています。このような 社会が劇的に変化する中での社長就任となりました。

私がこれまで国内外の営業畑を長く歩んできたことを評価いただいたとするならば、私に託された使命として、人と人の繋がり、行動、チャレンジといったキーワードを常に忘れずに経営に尽力して参ります。

2.社会的使命は創業主意への原点回帰

 当社グループは創業以来、新しい市場やビジネスを開拓する起業家精神とともに、社会的に有用な商品・サービスを提供するという、今日のSDGsにも繋がる創業主意を受け継ぎ、実践しています。これは後世に伝えるべき普遍的な価値だと捉えており、常に創業主意に原点回帰しながら経営判断を行うことで、当社グループのアイデンティティが明確になると考えています。一方、時代の変化により商社の役割が変化していることも認識しています。従来商社に求められてきたのは、情報、物流、金融、リスク管理といった機能でしたが、昨今はメーカーをはじめとする他業種がこれらの業務に参入するようになり、我々はあらためて、自身の存在意義や価値を深く追求する必要に迫られました。

3.環境変化とこれからの商社の可能性

失敗とチャレンジを恐れない商社に

 これからの商社は、トレーディングに軸足を置きながら、投資だけではなく、新たな事業創造に向け、サプライチェーンや販売網の中に深く切り込んでいく専門性の高いビジネスパートナーとしての存在感を示さなければならないと思っています。ビジネスをゼロからつくり上げるというのは、非常に楽しい経験です。失敗も多いですが、成功したとき、チームで目標を達成したときは筆舌に尽くしがたい満足感があります。こうした経験を社員に少しでも多く若い頃から経験してもらいたいと思っています。そのためには、積極的に新しいことにチャレンジするという気風を育まなければなりません。成長企業を標榜する当社グループとしては、グループ全体にそういったカルチャーを根付かせることを目的に、環境や体制の整備・改善に継続的に取り組んでいく必要があると考えています。

目的に向けチームを一体化するリーダーシップ

 入社以来、米国駐在を含め、電子・デバイス部門、車両・航空部門の営業での経験は私にとってかけがえのない財産です。商社の仕事はまず動くことが大事だと思っています。PDCAの中ではD(Do)が最も重要で、人の話を聞いて、特有な嗅覚で時代を先取りしながら新しい仕事を開拓していく、それもたくさんの人を巻き込みながら。多くの取引先やお客さま、社内外の人々とひとつのチームを結成している意識です。当社は取引先のオートバイのレーシングチームに対する支援を30年来続けています。プライベートのチームですので、資金力に勝るオートバイメーカーが直接運営するワークスチームとは力の差が歴然としていましたが、ワークスチームに勝つという一念で、2006年に鈴鹿8時間耐久ロードレースで日本一になり、2018年には世界耐久選手権で日本のチームとして初めて年間チャンピオンに輝き、世界一のタイトルも獲得しました。この間、チームは「勝つ」という目標に向かって一丸となって全力で取り組み、また全力で取り組んでいる姿を見てたくさんの方が応援するようになっていくという過程を見てきました。中でも、チームを鼓舞し、まとめあげる監督のリーダーシップは感動的で、リーダーとは何かを考えるときの指標となっています。

商社にとって今こそ千載一遇のチャンス

 この6月までは車両・航空部門長として業務執行を務めていたので、まさに今は、荒海の中を羅針盤もなく航海に出ているような感覚です。しかしながら、事業創造を担う商社にとっては、守りに入らず、社会変革の航路を自らが切り拓くつもりで経営に挑むことが必要であり、この時代こそが企業価値を大きく向上させることができる千載一遇のチャンスであると捉え、機動的な経営を実施していこうと決意いたしました。

 この環境下、最も迅速に、また広範囲にわたり確実に手を打たなければならないのが、グループを挙げたDX推進です。当社グループの中核のひとつであるICTソリューション事業は、現在の社会環境の変化に無くてはならないデジタル・ビジネスであり、この強みを武器にグループの隅々にいたるまでトランスフォーメーションを実践していきます。

部門の垣根を壊し新たな価値創造をするとき

 Amazon社やUber社などが象徴的ですが、業界秩序や商慣習にとらわれず斬新なビジネスモデルやテクノロジーで、従来の業界を破壊するような事態に加え、すべての業界がDX推進を急務としています。自動車はすでに半導体の塊であり、IT業界の代表的企業が自動車産業に参入しようという流れもあり、業界の垣根がなくなってきた状況です。

 一方、我々商社は幅広い領域でのビジネス展開を武器とし、業界を超えて、ビジネスとビジネスを巧みに組み合わせることで高度な付加価値を実現する事業創造に挑んでいます。それには、部門単位や兼松単体ではなく、より大きな枠組みで事業全体を把握し、グループ会社と連携しオール兼松で新規事業構築を加速させることが重要だと考えています。

 こうした中で、DX推進は当社グループには大きな飛躍のチャンスです。アフターコロナにおいてもリモートワークを発端とした移動の変化は確実に残っていくと思われます。商社の仕事は人と人との繋がりで成り立っていることは基本です。効率化の観点から、リモートでの業務が成立するならば海外拠点の整理なども検討してはという意見もありましたが、検討や調査を重ねた結果、海外の生きた情報を得られる拠点は商社ビジネスの要であることをあらためて認識し、拠点、人材、情報を今以上に活用していくべきだと考えました。それには、当社自体のDXを伴う変革が必須となります。社内のITインフラについてはこれまでの3年間でかなり進みましたので、今後はそれをグループ会社へと広げていきます。さらに、DXを推進し、技術革新をすることで、既存のビジネスモデルをさらに付加価値のあるものに昇華させ、競争力を上げていくことが重要だと思います。コロナ禍の1年はそれができていない部分もあったと感じています。

4.中期ビジョン「future 135」前半3ヵ年の総括

 2024年3月期を最終年度とする6ヵ年の中期ビジョン「future 135」では、将来に向けた更なる成長軌道を念頭に「規模の拡大」「付加価値の獲得」「質の向上」を積極的に推進し、伝統的ビジネスの進化と新規事業の創出により、持続可能な世界経済成長の実現と社会課題の解決に貢献することを基本方針として推進して参りました

前半の3ヵ年については、初年度は計画が順調に進み、業績についても予想を上回る結果を出すことができましたが、2年目以降は新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けることとなりました。3年目となる2021年3月期の業績は、主に新型コロナウイルス感染症拡大の影響により減収減益となりましたが、下半期の営業活動に係る利益がパンデミック前の水準まで戻っており、電子・デバイス、食料を中心とした収益基盤の底堅さを実感する結果にもなりました。

 重要な経営課題として取り組んできた人材戦略とDX推進は、将来への布石を打つことができるところまで進んだと評価しています。新規ビジネスの構築に向けた重要な事業投資やM&Aに3年間で約230億円を投じてきましたが、事業単独や部門、グループ会社個社で実施した案件が多いと感じます。シナジーをグループで最大化するような効果的な投資を実施することが、後半3ヵ年の課題です。

 前半3ヵ年で特筆すべきは、成長の萌芽を発掘する活動です。「先進技術・事業連携」チームを組成し、部門ごとではなくグループ全体として情報やネットワークの共有を図る仕組みを整えました。チームのメンバーは、企画部が中心となり、IT企画部と各営業部門、最近ではグループ会社の兼松エレクトロニクス株式会社と兼松コミュニケーションズ株式会社も加わり日々議論をしています。きっかけは、米国シリコンバレーを拠点にスタートアップ企業との連携を深めて新事業を創出しているグループ会社のKanematsu Ventures Inc.で、いわば種まきの事業を手掛けてきたことです。それぞれは大きな案件ではありませ んが、単に資金を投入するというのではなく、商社の持つネットワークやノウハウを、スタートアップ企業の機能を補完する役割として活用するスキームを構築し、企業を育成していく。シリコンバレーのベンチャーキャピタルとも連携して事業化に取り組んでいます。現在は複数の部門へと案件の領域も拡大しており、部門間やグループ会社との連携を促すことも可能な環境が整いました。当社グループのすべての部門で、これらの先進技術や新たなビジネスに触れる機会を設けるとともに、オープンイノベーションなどを通じ、社内外との強固な関係性をドライバーとして将来の成長の芽を育成していきます。

5.「future 135」後半3ヵ年の重点課題

SDGs達成と積極的なDX推進

 2021年3月期が終わりを迎えるにあたって、2021年5月に、後半3ヵ年に向けた見直しを発表しました。市場環境の変化はあったものの基本方針に大きな変更はなく、重点施策にSDGs達成への施策およびDX推進についての取組みを加えました。新型コロナウイルス感染症拡大による事業投資やそれに伴う収益成長の一時的な鈍化を考慮し、定量目標については修正をいたしました。こちらで詳しくご説明しておりますのでご覧ください。

 後半3ヵ年はグループを挙げたDX推進や、部門の垣根を越えシナジーを創出するグループ一体経営により、付加価値の拡大と事業創造に重点を置くべきだと考えています。特に業務効率化に向けたデジタル化をさらに進展させるとともに、従来のビジネスにデジタル技術を融合させることで新たな価値を生み出す事業を創造し、収益への貢献を高めていきたいと考えています。

 また、サステナブルな社会に向けて、SDGsの達成に寄与する環境・社会・安全をテーマとする事業分野での投資についても推進していきます。事業とSDGsとの関連性や目的意識を明確にするため、案件申請にはSDGsのどのゴールあるいはターゲットとそのビジネスが紐づいているか明記するようにしており、グループ全体でSDGsやTCFD提言に対する意識を高めています。

イノベーション投資のこれから

 「future 135」の成長イメージの軸であるイノベーション投資については、社会のイノベーションとともに新たなビジネスを構築すべく、AIやIoTといった先進技術を活用し、部門を超えた連携を実現しながら新事業の創出に取り組んでいます。前半3ヵ年では、データ流通・利活用の事業化に向け、データ取引市場の開設・運営を行うサービス体制を構築し、車両運行データとAIを駆使して脱炭素化や長期的には車載テレマティクス市場へと続く技術を持つ企業をグループ化しました。今後は幅広い顧客基盤を横断的に活かして、グループ全体でデータ流通・利活用事業を推進する計画です。さらに、これまで当社グループが手掛けてこなかった物流分野についても、2021年4月、空飛ぶクルマ※向けインフラ構築分野およびドローン物流市場での事業提携を果たしました。

※経済産業省と国土交通省が中心となり官民一体となって、日本における空飛ぶクルマの実現に向けて2023年サービス開始を目指しロードマップを協議中。

働き甲斐にも繋がる人材育成の推進

 商社にとって人材戦略は、最も重要な経営要素のひとつです。2019年に人材育成の要として、入社から10年目程度までの社員に向けた研修制度「兼松ユニバーシティ」を開設しました。当社グループ全社員が対象となっており、商社パーソンとしての人格形成、各国の文化や言語を学ぶこと、これらに加えてビジネスプランに必要なオペレーション、インベストメントを組み合わせ、基礎知識から実践まで幅広い知識を習得することができ、受講者は非常に意欲的に取り組んでいます。それ以外にもビジネスプラン策定研修や経営者育成研修など幅広い層に向けた制度を充実させてきました。一方で、グローバルに活躍できる人材の育成は座学だけでは難しい。ビジネスの現場に若い人たちをどんどん投入して、とにかく経験させるというのが大事なことなのです。そのため、入社から5年目程度までを対象とした6ヵ月間の海外実習制度を設けています。こうした育成の効果がそろそろ出てくることを期待しています。これからの時代は、個人のアイデアが事業に結び付く可能性を否定せず、意欲的な社員からの提言を大いに吸い上げ、経営者との垣根を無くし ていくことも必要だと考えています。人材戦略は単に学習機会を与えるだけではありません。働き甲斐に繋がる社員の意識改革の一端も担っているのです。

コーポレート・ガバナンスの実効性を拡大

 コーポレート・ガバナンスについては、「future 135」の最初の3年間で取締役会を機動的かつ効率的な体制に整備し、経営の監督と執行の分離を進めてきました。当社グループの企業価値向上に資する経験や知識を備えた社外取締役を迎え、取締役会では、専門性の高い貴重な意見をいただいています。取締役会の実効性評価についても外部機関の評価・分析により機能の更なる向上と議論の活性化が図られるよう取り組んでいます。今後は、中長期の経営戦略の検討などアジェンダを広く深くし、また、取締役会の機能発揮と多様性をより高めていくなど、一層の実効性拡大を図って参ります。

6.ステークホルダーの皆さまへ

 新型コロナウイルス感染症による不透明感は残るものの、ワクチン接種の進捗に応じて経済活動の正常化が進むものと思われます。こうした仮定を踏まえ2022年3月期については、連結業績は、収益を前期比7.8%増の7,000億円、営業活動に係る利益は前期比18.5%増の280億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は12.7%増の150億円を計画しています。

 配当については、株主の皆さまへの利益還元を経営の最重要課題と認識しており、リスクアセット倍率や収益構造が引き続き安定的であることから、今後も株主の皆さまに継続的かつ安定的な株主還元をさせていただきます。2022年3月期の年間配当は1株当たり60円(配当性向33.4%)を維持していく計画です。

 当社の創業主意は、SDGsの考え方にも通じ、ステークホルダーと利益をわかちあうCSV(Creating SharedValue)の考え方にも繋がり、ニューノーマルといわれる不確実性の高まる時代にとって頼りになる羅針盤であるとあらためて感じています。これからもこの普遍的な考え方に常に回帰し、持続的な企業価値の向上、社会貢献に邁進して参ります。

以上

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