生物多様性

方針・基本的な考え方

当社グループの事業活動は、多種多様な生物がさまざまな関係でつながることによって生じる生態系サービスに大きく依存しており、 事業活動にあたって生物多様性および自然生態系の保護に十分配慮することは、当社グループにとって重要な課題であると認識しています。 自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures、以下 TNFD)のフレームワークに基づいた分析を行うことで、 当社グループの事業活動における自然資本・生物多様性の依存・インパクトを把握し、今後の施策に繋げていくよう努めます。

TNFD提言に基づく開示(エグゼクティブサマリー)

当社は TNFD の提言に賛同し、2024 年 2 月に TNFD フォーラムへの参画を表明いたしました。 TNFD のフレームワークに沿って、当社グループの事業が自然資本・生物多様性に依存している内容および自然資本・生物多様性が当社グループの事業に与えるインパクトを把握し、リスクと機会を分析した結果について、以下の通り開示いたします。

項目 TNFD開示推奨項目(14項目) 当社の取組み(要約)
ガバナンス A. 自然関連の依存、インパクト、リスクおよび機会に関する取締役会における監視体制

監視体制

取締役会
B. 自然関連の依存、インパクト、リスクおよび機会の評価と管理における経営層の役割

経営層の役割

企画担当役員および各営業部門の責任者(執行役員)が参加する
サステナビリティ推進委員会における討議・報告
C. 影響を受けるステークホルダーに関する人権方針とエンゲージメント活動、
および取締役会と経営層による監視体制
取締役会は「兼松グループ人権方針」「持続可能なサプライチェーンに向けた取組み方針」を制定し、エンゲージメント活動を監視
戦略 A. 短・中・長期の自然関連の依存、インパクト、リスクおよび機会

以下2事業においてLEAP分析*を実施しリスクと機会を特定

  • 牛肉事業(中長期)

      リスク 飼料生産性の低下や法規制強化による調達コスト増加
      環境志向の高まりによる売上減少

      機会 新技術の開発・普及に伴う新たな機会(植物由来肉) 
      環境に配慮した調達先選定

        
  • コーヒー事業(中長期)

      リスク 農業生産性の低下や法規制強化による調達コスト増加

      機会 サステナブルコーヒーの販売拡大         
      取引先農園による生態系の維持

        
B. 自然関連の依存、インパクト、リスクおよび機会のビジネス・戦略・財務計画に及ぼす影響
C. 自然関連のリスクと機会に対する戦略のレジリエンス
D. 優先地域に該当する直接操業やバリューチェーンにおける資産等
リスクとインパクトの管理 A(ⅰ)直接操業における自然関連の依存、インパクト、リスクおよび機会を識別、評価するプロセス 事業に従事する営業部門が事業活動と照らし合わせて識別・評価を実施
A(ⅱ)バリューチェーンにおける自然関連の依存、インパクト、リスクおよび機会を識別、評価し、優先順位付けするプロセス
B. 自然関連の依存、インパクト、リスクおよび機会を管理するプロセス 企画担当役員および各営業部門の責任者(執行役員)が参加する
サステナビリティ推進委員会における討議
C. 自然関連リスクを識別・評価・管理するプロセスが、総合的リスク管理に統合されているか 各営業部門→サステナビリティ推進委員会→取締役会
指標と目標 A. 自然関連のリスクおよび機会を評価する際に用いる指標

B. 自然に対する依存とインパクトを評価する際に用いる指標

C. 自然関連の依存、インパクト、リスクおよび機会を管理する際に用いる目標および実績
今後検討予定

(*)Locate(発見)、Evaluate(診断)、Assess(評価)、およびPrepare(準備)のステップで、自然との接点、自然との依存関係、インパクト、リスク、機会など、自然関連課題の評価のための統合的なアプローチとしてTNFDにより開発。

TNFD 提言に基づく開示(詳細)

ガバナンス/リスクとインパクトの管理

自然資本・生物多様性に関しては、気候変動と同様に取締役会の管理監督のもと、サステナビリティ推進委員会でリスク等を管理しております。
気候変動 についてはTCFD 提言に基づいて開示しております。

執行

当社グループにおける事業活動は、営業部門(7部門)を中心に推進・執行しています。事業に関わるバリューチェーン上の自然資本・生物多様性関連のリスク・機会の識別および評価についても、各営業部門が事業活動と合わせて行っております。

管理

当社は、事業内容を熟知する執行機関である営業部門の責任者(執行役員)と、当社グループの基本的な経営方針、経営戦略、および経営資源の配分を主管する企画担当役員(執行役員)でサステナビリティ推進委員会を構成し、企画担当役員が委員⾧を務めております。サステナビリティ推進委員会は、営業部門において識別・評価された自然資本・生物多様性関連の依存、インパクト、リスクおよび機会について討議し、管理しております。

監視監督

取締役会は、サステナビリティ推進委員会より定期的な報告を受け、当社グループにおける自然資本・生物多様性関連の総合的なリスク管理について監視監督を行っております。

2024 年3 月期サステナビリティ推進委員会討議内容(自然資本・生物多様性関連)
TNFD への賛同およびTNFD フォーラムへの参画
TNFD フレームワークに基づく開示に向けた評価事業の特定

2024 年3 月期 取締役会における特記事項
取締役会において外部専門家による『生物多様性・自然資本に関する動向』役員研修実施

人権尊重とステークホルダーエンゲージメント

当社グループは、自然資本や生物多様性が先住民族や地域社会などの人権や生活に深く結びついていることを認識しています。当社グループは「兼松グループ人権方針」「持続可能なサプライチェーン構築に向けた取組み方針」を定め、先住民族、地域社会を含めたすべてのステークホルダーの人権を尊重するための取組みを推進しています。重要人権課題の1 つである「先住民の権利」については、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」「独立国における原住民及び種族民に関する条約(ILO 第 169 号)」「自由意志による、事前の、十分な情報に基づいた同意(free, prior, and informed consent:FPIC)」等、先住民族の権利に関する国際規範・基準を尊重し、先住民族の人権や文化に対して十分に配慮することにコミットしています。サステナビリティ推進委員会はこの方針に基づいて、サプライヤー向け人権デューデリジェンスにおいて、当社グループの事業活動が先住民族や地域住民、周辺環境や自然資本に負のインパクトを与えていないか確認・管理し、取締役会に報告しています。

参考:

「兼松グループ人権方針」

「持続可能なサプライチェーン構築に向けた取組み方針」

戦略

基本的な考え方

当社グループがグローバルに展開する事業は、自然資本や生物多様性に依存すると同時にインパクトを与えていると認識しており、これらの環境資産や生態系サービスの保全や回復を喫緊の課題と捉えています。当社はサステナビリティに関する重要課題(マテリアリティ)に「脱炭素社会に向けた取組み」「持続可能なサプライチェーンの構築」「地域社会との共生」を掲げ、サプライチェーンの脱炭素化、サーキュラーエコノミーの創出等を重点的に強化することにより、サプライチェーン上において当社が従事する事業に留まらず、サプライヤー、取引先、およびビジネスパートナー等が有するバリューチェーン全体で自然関連の課題解決に注力してまいります。

LEAPアプローチ

TNFD が提案する自然関連課題を評価・管理するための統合アプローチである LEAP アプローチ(*)を実施しました。

(*)Locate(発見)、Evaluate(診断)、Assess(評価)、およびPrepare(準備)のステップで、自然との接点、自然との依存関係、インパクト、リスク、機会など、自然関連課題の評価のための統合的なアプローチとしてTNFD が開発。

Locate (自然との接点の発見)

(1)当社グループが行う14の事業セグメントをバリューチェーンの段階別に整理し、ENCORE(*)の事業分類との紐づけを行いました。
次に事業分類ごとに自然関連の依存とインパクトを算出し、自然関連の依存度を横軸に、自然関連のインパクトを縦軸に置き、自然関連の依存とインパクトの度合いをマッピングしました。ENCOREのデータを活用し、依存とインパクトの大きさを定量化することで、事業活動における自然資本・生物多様性との関係性の把握が可能となりました。

*金融機関のネットワーク「自然資本金融同盟(Natural Capital Finance Alliance (NCFA))」と、国連環境計画世界自然保全モニタリングセンター(UNEP-WCSC)などが共同で開発した自然へのインパクトや依存度の大きさを把握するツール

(2)マッピングにより、食糧事業、食品事業、畜産事業の3事業で自然関連への依存度が特に高く、エネルギー事業で自然へのインパクトが最も大きいことが確認できました。

(3)今回の分析では、依存・インパクトの大きさが平均以上のエリアのうち、依存度が特に高い3事業(食糧、食品、畜産)の中で、SBTN(Science Based Targets Network)で自然へのインパクトが大きいとされるコモディティ(原材料)にもリストアップされ、且つ産地が集約されていてLEAPアプローチに有用な情報が得られることから、牛肉事業とコーヒー事業の2事業を評価対象事業として選定しました。

(4)評価対象事業に選定した2事業のうち、牛肉事業では南北アメリカ、オーストラリアの肥育場、精肉・加工業者等を約60拠点、コーヒー事業では中南米、アフリカ、東南アジアの農園、サプライヤー等を約20拠点、合計約80拠点において、自然への依存やインパクトがある地域の特定のため、事業活動がどのバイオームや生態系と接点を持つのか確認・分析を実施しました。

(5)自然への依存やインパクトがある重要な地域の特定に際して、TNFD フレームワークver1.0 に基づき、「要注意地域」の判断基準として「生物多様性にとって重要な地域である」「生態系の完全性が高い」「生態系の完全性が急激に低下している」「物理的な水リスクが高い」「先住民族、地域コミュニティ、ステークホルダーへの便益を含む生態系サービスが重要である」の5つを採用し、それぞれを判断するデータベース(*)を用い、重要度の高さを拠点ごとに5段階で評価しました。重要度が最も高いと考えられる地域に1つでも該当した拠点は「要注意地域」と設定し、牛肉事業で25拠点、コーヒー事業で8拠点、計33拠点を優先して分析すべき重要な地域として特定しました。

(*)WWF Biodiversity Risk Filter(Protected/Conserved Areas、Key Biodiversity Areas), Biodiversity Intactness Index, Ecoregion Intactness Index, WWF Water Risk Filter(Water Scarcity、Flooding、Water Quality), Critical Natural Asset Layers

Evaluate(依存とインパクトの診断)

(1)ビジネスプロセスと活動をもとに、牛肉事業については飼料栽培・畜産、加工の3プロセス、コーヒー事業については原料栽培、加工の2プロセスにおける関連する自然への依存(生態系サービス)とインパクト(インパクトドライバー)を、ENCOREの結果および文献調査を活用して、5段階の重要性評価を行いました。その後、両事業におけるカテゴリー・インパクトドライバー/生態系サービスごとに、依存またはインパクトを与える主要な環境資産を特定した結果、「陸域生態系」「栽培生物資源」「大気」「水資源」の4つが該当することがわかりました。また、コーヒー事業の加工プロセスについては、依存とインパクトのうち、依存において自然との接点による地理的重要性が低いことが判明し、次工程における事業活動と環境資産との接点の把握からは除外しました。

自然への依存、インパクトの評価(5 段階評価中Very High、High がある項目のみ抽出)および関連する環境資産

牛肉事業(飼料栽培、畜産、加工)

コーヒー事業(原料栽培、加工)

(2)上記(1)で特定した4つの重要な環境資産について、TNFD の『依存・インパクトの経路図』を用いて、依存・インパクトの関係性を整理しました。牛肉事業、コーヒー事業それぞれの事業活動がもたらす「インパクト要因」や「外部要因」が重要な4つの環境資産に対してどのような負のインパクトを与えるのか、その結果、環境資産からもたらされる「生態系サービス」がどのように変化し、環境資産が「組織、社会、自然」などにどのようなインパクトを及ぼすのか等、フロー図で示すことで、事業活動との関係性を把握しました。

Assess(リスクと機会の特定)

(1)Evaluate フェーズで整理した当社の事業活動と環境資産における依存・インパクトの関係性をもとに、牛肉事業とコーヒー事業において中⾧期的に生じうる自然関連リスクを考察し、ロングリストにまとめました。自然関連リスクのロングリストの作成にあたっては、TNFD フレームワークver.1.0 で示される自然関連リスクと財務的インパクトの例を参照すると共に、補完的にReprisk(*)を利用し、実際のリスク顕在化事例を調査しながら、網羅的にリスクを洗い出しました。

(*)Reprisk は様々なメディアが公開している情報をリサーチ、分析し、企業の評判、コンプライアンス、財務にインパクトを与える可能性がある重大なESG リスクおよび国際基準の違反を体系的にモニタリングしているデータベース。240,000以上の企業、70,000を超えるプロジェクトがリスクインシデントに関連づけられている。

(2) ロングリストのリスク項目に対して、リスクの回避、低減、軽減、管理によって生じる機会を特定しました。更にTNFD フレームワークver.1.0 で示される機会の例を参照したほか、文献等を参考にして機会を補完し、リスクを軽減する対応策やリスク・機会を管理する体制について、既に対応しているものがあるかを確認しました。

リスク・機会の測定にあたっては、TNFD のガイダンスに従い、2030年時点の将来を想定し、生態系サービスの劣化速度と、市場原理と消費者等の関係性に基づく4つのシナリオのうち、当社が現時点で実現可能性が高いと考えるシナリオ#2を選択しました。このシナリオ#2は、自然の喪失の劣化が急速に進み、損害が甚大であり、また脱炭素およびネイチャーポジティブに向けた規制や市場が強化され、消費者も自然への関心、危機感が高く協調的であるという世界観です。評価にあたって、将来的な人口動態や消費者の嗜好の変化をはじめ、当社の持つ固有情報や事業内容および地域を考慮し、シナリオの内容を精緻化しました。

(3)選定したシナリオ#2に基づき、ロングリストにまとめたリスク・機会について重要性評価を行いました。 TNFD が提示している優先順位付けの判断基準に基づき、リスクについては顕在化する可能性および発生した場合の当社へのインパクトの強度を主な判断軸としました。機会については発生可能性の評価が困難であるため、インパクトの強度のみを考慮しています。この評価結果をマッピングし、両事業における優先順位の高いリスクと機会を以下の通り整理し、主な対応戦略を確認しました。

牛肉事業に関するリスクと機会(2030年シナリオ)

自然との共生①ウルグアイでの畜産

国土のうち80%が農地・牧草地であるウルグアイは、国の基幹産業として牛肉生産を400年以上行っています。牛一頭あたりにサッカー場2面という広大な放牧面積を割り当てる等、自然に近い状態で家畜生産を行い、自然環境との共生を図っています。ウルグアイ産牛肉の特徴である上質な赤身肉の需要は高まっており、今後も安定的な供給と認知度の向上を目指しています。

コーヒー(原料栽培)に関するリスク(2030年シナリオ)

  • 森林リスクコモディティ:森林を切り拓いて農地や放牧地に土地改変して生産された農畜産物
  • 熱帯雨林の保護や労働環境の向上を目的とするレインフォレスト・アライアンス認証(RA認証)をブラジルで初めて取得し、品質、環境の両方に重点を置いたサステナブルコーヒーの先駆者
  • ダテーラ農園で実施している、生態系の回復を目指す植樹事業

自然との共生②ダテーラ農園

当社では日本でまだサステナビリティという言葉に馴染みのない頃から、将来世代まで持続可能な自然環境や人々の生活を守っていくことを責務だと感じていました。「レインフォレスト・アライアンス認証」をブラジルで初めて取得したダテーラ農園との取引は、20年以上もの⾧期にわたり継続しています。

ダテーラ農園では1980年代より環境保護を意識したスペシャルティコーヒーを生産する経営を行い、自然との共生を目指してきました。大規模な農園の敷地の半分にあたる原生林を保護林としているため、動植物の生態系が保護され、貯水池では天水を含む水資源を確保しています。コンポストの利用やアグロフォレストリー(森林農業)やリジェネラティブ農業、工場電力を100%太陽エネルギーで賄うなどカーボンネガティブの実現にも意欲的です。また近年ではトリリオンプロジェクト(The Tree_llion Project)を通じて環境保護のための植樹事業も行っています。

当社グループではダテーラ農園の取組みに共感し、同様の取組みに着手し始めている他の生産地域との取引を発掘し、サステイナブルコーヒーの販売拡大を目指すほか、自然環境を保護する哲学をその他のサプライヤーや取引先に紹介し、理解していただくことで商社の立場から自然環境への取組みを継続します。

指標と目標

Prepare(戦略検討)

当社では従前の「サプライチェーンCSR行動指針」を改め、2024年3月に当社のサプライチェーンにより積極的に働きかける「持続可能なサプライチェーン構築に向けた取組み方針」を制定しました。当社グループの事業には多くのステークホルダーが存在するため、サプライチェーン全体では幅広い自然資本・生物多様性への課題があると認識しています。引き続き、生物多様性の保全への取組みを行うことで、持続可能なサプライチェーン構築を目指します。また、自然関連の定量的な指標・目標の設定についても検討してまいります。

イニシアチブへの参画

兼松では各種イニシアティブへの参画を通じて、生物多様性保全への取組みを推進しています。

サステナブル・シーフードのサプライチェーンへの取組み

兼松は「MSC/ASC CoC認証」を取得しています。MSC*1 認証・ASC*2認証とは、持続可能な漁業法・養殖法で水揚げされた水産物の証で、MSC認証は「天然資源」ASC認証は「養殖資源」に適用されます。またCoC*3認証とは、MSC認証・ASC認証を取得した漁業者・養殖業者による認証水産物であることを明記して消費者のもとへお届けするために必要な認証です。水産物の流通・加工の過程で、非認証の水産物の混入を防ぐため、製品がたどってきた経路を遡ることができるようにトレーサビリティを確保する仕組みです。
兼松ではCoC認証の取得を機に、サステナブルな水産物を確実に消費者へお届けするサプライチェーンの一翼を担う企業として水産資源や海洋環境の保護に努め、SDGsの14番目の目標「海の豊かさを守ろう」の推進に寄与しながら、持続可能な水産業をさらに発展させて参ります。
*1 MSC : Marine Stewardship Council (海洋管理協議会)
*2 ASC : Aquaculture Stewardship Council (水産養殖管理協議会)
*3 CoC:Chain of Custody (加工・流通過程の管理)