方針・基本的な考え方
1889年(明治22年)の創業に際し、創業者兼松房治郎が自ら筆をとって記した創業主意「わが国の福利を増進するの分子を播種栽培す」は、わが国の経済を発展させ豊かにし、人々を幸福にするために一粒の種をまく(=事業をおこす)という意味で、現代社会においては、日本のみならず世界中の国や地域、そこで暮らす人々を豊かで幸せにするために行動する意思であり、持続可能な開発目標(SDGs)に通じる理念です。
SDGsの17Goalsのなかでも気候変動については、創業以降、事業の選択と集中を経て取組みを進めた結果、現在は火力発電や石炭事業をはじめとする環境負荷の高い事業のない事業ポートフォリオとなっております。また、すべての投資案件の実行、重要な契約の締結、および重要な資産の取得に際しては、当社グループのサステナビリティの考え方および重要課題(マテリアリティ)を踏まえており、今後も環境負荷の高い事業に取り組むことを回避できるよう、その執行を管理、監督するガバナンス体制も構築しております。
こうした長年にわたる環境負荷に対する管理・制御が奏功し、当社グループの事業活動におけるCO2排出量(Scope1,2)は当社の事業規模に照らし合わせて極めて低い水準にあるため、SBT(Science Based Targets)に基づく更なる削減目標を設定することは現実的でなく、困難であると考えております。今後も大きくは増加させない仕組みとしてこのガバナンス体制を維持して参ります。
一方、当社グループは、近年、森林保全事業、二国間クレジット事業、および再生可能エネルギー関連事業等を積極的に推進しており、これらの事業活動を通じて創出するクレジット、CO2削減貢献量が当社グループのCO2排出量を大幅に上回る水準を目指して取り組みます。その結果として地球全体の排出削減に貢献し、世界の脱炭素に資することが、サプライチェーンを繋ぐ商社としての役割であり、使命であると考えます。
当社のこの考え方は、SBTをはじめとする国際基準が示す定義とは一線を画すものですが、商社としての業態、ビジネス、そしてあるべき姿を鑑みた際に、わが国および国際社会に貢献し続ける企業グループであり続けることを志向するものです。
TCFD提言に基づく開示(エグゼクティブサマリー)

当社は、2021年6月に気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures、以下、TCFD)の提言に賛同しました。気候変動がもたらす事業へのリスクと機会について、TCFDのフレームワークに沿った情報開示に努め、より分かりやすくお伝えして参ります。
ガバナンス
TCFD開示推奨項目 | 当社の取組み(要約) |
---|---|
a) 気候関連の影響についての取締役会における監視体制 |
監視体制 取締役会 |
b) リスク・機会の評価および管理における経営層の役割 |
経営層の役割 企画担当役員および各営業部門の責任者(執行役員)が参加するサステナビリティ推進委員会における討議・報告 |
戦略
リスクと機会
気候変動の影響の定性的側面と売上高・利益の定量的側面を軸とし、北米牛肉事業、鋼管事業、トウモロコシ事業、灯油事業、コーヒー事業、二輪部品事業の6事業でシナリオ分析を実施。各々の事業の最重要項目は以下の通り。
TCFD開示推奨項目 | 当社の事業 | リスク | 機会 |
---|---|---|---|
a) 短・中・長期の気候関連のリスクおよび機会 (短・中・長期、4℃シナリオと2℃未満シナリオ) |
北米牛肉事業 | 平均気温上昇による飼料・牧草の価格上昇(物理リスク) | 新技術の開発・普及に伴う新たな機会 (植物由来肉) |
鋼管事業 | 化石燃料の需要減少(移行リスク) | 新技術の開発・普及に伴う新たな機会(CCUS、EOR) | |
トウモロコシ事業 | 畜肉需要の低下に伴う売上高の減少、および飼料用途以外の需要拡大による調達コストの増加(移行リスク)、平均気温上昇や干ばつによる調達コストの増加(物理リスク) | 新技術の開発普及に伴う新たな機会 (バイオプラスチック) |
|
灯油事業 | 規制の強化による需要減少(移行リスク)、海面上昇に伴うサプライチェーンの分断(物理リスク) | 再生可能エネルギー事業の拡大と低GHG排出製品の販売 | |
コーヒー事業 | 法規制強化による調達コストの増加(移行リスク)、異常気象の激甚化によるサプライチェーン分断に伴う売上の減少(物理リスク) | サステナブルコーヒーの販売拡大 | |
二輪部品事業 | 原材料の価格高騰に伴う調達コストの増加、規制強化に伴う小型エンジン車部品の売上の減少(移行リスク) | 消費者の嗜好・意識変化による小型ZEV部品の売上増加 | |
b) 気候関連のリスクおよび機会のビジネス・戦略・財務計画に及ぼす影響 |
影響 気候関連のリスクと機会による影響度(財務インパクト)は当社全体に対するものではなく、それぞれのシナリオ分析対象事業の収益または費用に対するインパクトで、次の定量的基準により、大/中/小で整理しております。定量的基準 大 : 10億円以上 中 : 5億円以上、10億円未満 小 : 5億円未満 |
||
c) 複数シナリオを活用したシナリオ分析および気候変動に対する戦略のレジリエンス |
分析結果
|
リスク管理
TCFD開示推奨項目 | 当社の取組み(要約) |
---|---|
a) 気候関連のリスクを識別および評価するプロセス |
識別・評価 各営業部門 |
b) 気候関連のリスクを管理するプロセス |
管理 サステナビリティ推進委員会 |
c) 気候管理のリスクを識別・評価・管理するプロセスが、総合的リスク管理に統合されているか |
統合(報告・監視監督) 各営業部門→サステナビリティ推進委員会→取締役会 |
指標と目標
TCFD開示推奨項目 | 当社の取組み(要約) | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
a) 気候関連のリスクおよび機会を評価する際に用いる指標 | (指標)CO2排出量、CO2削減貢献量 | ||||||||
b) Scope1, Scope2および当てはまる場合はScope3の温室効果ガス(GHG)排出量とその関連リスク (単位:t-CO₂) |
年度 | 対象 会社数 |
Scope1 | Scope2 | Scope1,2 合計 |
削減 貢献量(*1) |
Scope3(*2) | ||
2025年3月 | 算定中 | 算定中 | 算定中 | 算定中 | 1,151,264 | 算定中 | |||
2024年3月 | 100 | 8,781 | 17,788 | 26,569 | - | 817,353 | |||
2023年3月 | 97 | 9,507 | 18,814 | 28,321 | - | 867,758 | |||
2022年3月 | 95 | 9,772 | 19,725 | 29,497 | - | 1,047,775 | |||
c) 気候関連リスクおよび機会を管理するために用いる目標および目標に対するリスク (単位:t-CO₂) |
対象期 | 対象年度 | CO₂排出量(Scope1,2合計)に関する目標 (a) |
削減貢献量に 関する目標 (b) |
排出量に対する削減貢献量の割合 (b/a) |
削減貢献超過分 (b-a) |
|||
2026年3月期 | 2025年 | 30,000以下 | 800,000 | 26.7倍 | (△)770,000 | ||||
2031年3月期 | 2030年 | 30,000以下 | 1,000,000 | 33.3倍 | (△)970,000 | ||||
2051年3月期 | 2050年 | 30,000以下 | 1,500,000 | 50.0倍 | (△)1,470,000 |
(*1) CO₂削減貢献量の算定は、2025年3月期より開始
(*2) Scope3については、カテゴリー1,2,3,6,7,15を対象として部分的に算定(14フランチャイズは対象外) ただし、カテゴリー1は当社が購入した製品・サービスのうち、影響の度合いが大きいと思われる牛肉を対象に算出
TCFD提言に基づく開示(詳細)
ガバナンス/リスク管理

執行
当社グループにおける事業活動は、営業部門(7部門)を中心に推進・執行され、気候関連のリスク識別および評価についても、各営業部門が事業活動と照らし合わせて行っております。
管理
当社は、事業内容を熟知する執行機関である営業部門の責任者(執行役員)と、当社グループの基本的な経営方針、経営戦略、および経営資源の配分を主管する企画担当役員(執行役員)でサステナビリティ推進委員会を構成し、企画担当役員が委員長を務めております。サステナビリティ推進委員会は、営業部門において識別・評価された気候関連のリスクについて討議しております。また当社グループのCO2排出量を定期的に算定し、その増減要因や対策の方向性を協議することで総合的なリスク管理を行っております。
監視監督
取締役会は、サステナビリティ推進委員会より定期的な報告を受け、当社グループにおける気候関連の総合的なリスク管理について監視監督を行っております。
サステナビリティ推進委員会での気候変動に関する討議内容は以下の通りです。
2025年3月期
- サステナビリティに関する取組みの情報開示(人権、生物多様性、気候変動(CDP)など)
- 2024年3月期GHG排出量報告と増減分析
- GHG排出削減貢献に関する取組みと貢献量の進捗確認
- 欧州の企業サステナビリティ報告指令(CSRD)対応の進捗確認
2024年3月期
- TCFD提言に基づく情報開示
- 2023年3月期GHG排出量報告と増減分析
- 2024年3月期TCFDシナリオ分析対象事業の選定
- GHG排出削減に関する取組みと進捗確認
- GX事業の進捗確認
- 再生可能エネルギー由来電力導入における助成制度の新設について
- CDP気候変動2023レビュー
2023年3月期
- CO2排出削減量目標の設定とTCFD提言に基づく情報開示
- 2022年3月期GHG排出量報告と増減分析
- 2023年3月期TCFDシナリオ分析対象事業の選定
- GHG排出削減に関する取組みと進捗確認
- 実行済み投資に関するサステナビリティ観点での取りまとめ
- CDP気候変動2022レビューと分析
基本的な考え方
基本的な考え方
当社グループは、中期経営計画 integration 1.0の基本方針のひとつに顧客に提供する最適なソリューションとしての提供価値の拡充を掲げ、そのなかでサプライチェーンの脱炭素化、サーキュラーエコノミーの創出等を重点的に強化することとしており、気候変動を積極的な事業機会と捉えております。
シナリオ分析対象事業の選定


まず、当社グループが行う事業を気候変動の定性的影響としてTCFD提言におけるハイリスクセクターを元に該当・非該当に分類しました。
次に、当社グループにとっての影響度を、売上高の定量的側面を軸に分類し、定性的影響および定量的影響の大きい4分野の中から当社連結売上高(IFRS収益)に相対的に大きな割合を占める事業について以下の通り、シナリオ分析対象に選定しました。
2022年3月期から継続 :
北米牛肉事業、鋼管事業
2023年3月期 :
トウモロコシ事業、灯油事業
2024年3月期 :
コーヒー事業、二輪部品事業
気候シナリオの選定
気候変動がもたらす新たな機会とリスク、また事業の耐性を客観的に判断する観点から、当社ではIEA(International Energy Agency : 国際エネルギー機関)「World Energy Outlook 2023」 「Net Zero by 2050 Roadmap for the Global Energy Sector」「IPCC第6次評価報告書」等を参照し、以下シナリオを用いて2030年、2050年を分析しました。
-
4℃シナリオ(現行シナリオ)
-
STEPS(Stated Policies Scenario、公表政策シナリオ)
導入済みまたは既に公表されている政策が実施されるシナリオ -
APS(Announced Pledges Scenario 、発表済み誓約シナリオ)
各国政府による発表済みの誓約が期限通りに完全に達成されるシナリオ -
BAU(Business-as-usual、現状維持シナリオ )
化学燃料が主要なエネルギー源であり続け、温室効果ガス排出量が増加を続けるシナリオ
-
STEPS(Stated Policies Scenario、公表政策シナリオ)
-
2℃未満シナリオ(移行シナリオ)
-
NZE(Net Zero Emissions by 2050 Scenario 、2050年ネットゼロ排出シナリオ)
世界のエネルギー部門が2050年までに CO2ネットゼロを達成するシナリオ -
TSS(Toward Sustainability Scenario、持続可能性追求シナリオ)
SDGs目標の達成に向けた進展が世界的にみられ、 世界のエネルギー需要が再生可能な資源で充足されるシナリオ
-
NZE(Net Zero Emissions by 2050 Scenario 、2050年ネットゼロ排出シナリオ)
気候関連のリスクと機会の影響度
気候関連のリスクと機会による影響度(財務インパクト)は当社全体に対するものではなく、それぞれのシナリオ分析対象事業の収益または費用に対するインパクトで、次の定量的基準により、大、中、小の区分としております。

定量的基準
大 : 10億円以上
中 : 5億円以上、10億円未満
小 : 5億円未満
― : 定性的評価に留めたもの
シナリオ分析と戦略のレジリエンス
- 北米牛肉事業
-
財務インパクトについては、「World Energy Outlook 2023」、「IPCC第6次評価報告書」の最新シナリオで見直しを行いました。
リスク
北米のトウモロコシ栽培地域における夏場の平均気温上昇が見込まれる
機会
直接的な気候変動の影響はないが、いずれのシナリオにおいても、人口増加による牛肉需要増が予想される
- 鋼管事業
-
財務インパクトについては、「World Energy Outlook 2023」、「IPCC第6次評価報告書」の最新シナリオで見直しを行いました。
リスク
2℃未満シナリオにおいて、化石燃料の大幅な需要減少が予想される。
機会
CCUSによるCO2回収量の増加が予想される。
- トウモロコシ事業
-
財務インパクトについては、「World Energy Outlook 2023」、「IPCC第6次評価報告書」の最新シナリオで見直しを行いました。
リスク
2℃未満シナリオにおいて、牛肉および畜肉の需要低下によるとうもろこし飼料の大幅な需要減少が予想される。
機会
バイオプラスチックなどの低GHG排出製品市場向けの需要が予想される。
- 灯油事業
-
- 財務インパクトについては、「World Energy Outlook 2023」、「IPCC第6次評価報告書」の最新シナリオで見直しを行いました。
リスク
2℃未満シナリオでは大幅な原油の需要減が見込まれる。
機会
再生可能エネルギー事業の拡大と低GHG排出製品の販売
- コーヒー事業
-
コーヒー生豆事業においては、公的機関等による客観的統計データの不足により定性評価に留めた項目が多い。
リスク
2℃未満シナリオでは環境保護規制の強化により、コーヒー調達コストの上昇が予想される。
機会
2℃未満シナリオでは消費者や取引先の環境意識が世界的に高まり、ダテーラ農園(※1)産などのサステナブルコーヒーの需要増加が見込まれる。
(※1)熱帯雨林の保護や労働環境の向上を目的とするレインフォレスト・アライアンス認証をブラジルで初めて取得し、品質、環境の両方に重点を置いたサステナブルコーヒーの先駆者。
- 二輪部品事業
-
(※)2050年には環境規制の強化に伴い、小型EV車への転換が進むことで小型ZEV部品の売上増加が、小型エンジン車部品の売上減少を上回る
リスク
鉄鋼製品価格の上昇に伴う調達コストの増加が大きな負担となる可能性がある
機会
拡大が見込まれる二輪車市場において、大型車向けの部品販売に加え、小型エンジン車に代わる小型EV車向けに必要となる新技術製品(例:カーボンフライ社のカーボンナノチューブ、ZEV部品等)や、環境対応製品(データテック社のデジタルタコグラフ等)の需要増加が予想される。
指標と目標
指標(CO2排出量、CO2削減貢献量)
当社グループは、工場等の所有も少なく、CO2以外の温室効果ガスの排出が少ない事から、温室効果ガスの中からCO2を採択しております。
気候関連のリスクと機会の評価指標として、CO2排出量およびCO2削減貢献量を用いております。
実績
(単位:t-CO₂)
対象期 | 対象 会社数 |
CO2排出量 | CO2削減 貢献量*1 |
CO2排出量 Scope3*2 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
Scope1 | Scope2 | Scope1,2合計 | |||||
2025年3月期 | - | 算定中(2025年7月完了予定) | 1,151,264 | 算定中 | |||
2024年3月期 | 100 | 8,781 | 17,788 | 26,569 | 817,353 | ||
2023年3月期 | 97 | 9,507 | 18,814 | 28,321 | 867,758 | ||
2022年3月期 | 95 | 9,772 | 19,725 | 29,497 | 1,047,775 |
注1:CO2削減貢献墨の算定は、2025年3月期より開始
注2:S cope3については、カテゴリー1,2, 3, 6, 7, 15を対象として部分的に算定 (14フランチャイ ズは対象外)
ただし、カテゴリー]は当社が購入した製品・サービスの内、影響の度合いが大きいと思われる牛肉を対象に算出
目標
Scope1,2に関する目標
(単位:t-CO₂)
対象期 | 対象年度 | 目標 | 排出量に対する 削減貢献量の割合 (b/a) |
削減貢献超過分(b-a) | |
---|---|---|---|---|---|
(a)CO2排出量 | (b)CO2削減 貢献量 |
||||
2026年3月期 | 2025年 | 30,000以下 | 800,000 | 26.7倍 | (△)770,000 |
2031年3月期 | 2030年 | 30,000以下 | 1,000,000 | 33.3倍 | (△)970,000 |
2051年3月期 | 2050年 | 30,000以下 | 1,500,000 | 50.0倍 | (△)1,470,000 |
Scope1,2および3に関する目標
再生可能エネルギーへの転換でCO2排出量の削減を行い、当社グループ会社数の増加がある場合でも、CO2排出量を30,000 t-CO2以下に抑制すべく取り組みます。
さらに、REDD+等の森林保全事業や二国間クレジット事業、および再生可能エネルギー関連事業を拡大し、削減貢献量を積み増すことで、2050年には当社グループのCO2排出量の50倍程度に相当する1,500,000t-CO2の削減貢献量を目指し、わが国および国際社会のGHG削減に寄与して参ります。
外部との協業
業界団体:日本貿易会
当社は商社の業界団体である日本貿易会の地球環境委員会の委員として、低炭素社会および循環型社会構築に向けた取組みを推進しています。また日本貿易会が掲げる「気候変動対策長期ビジョン」についても、 当社の方針・目標と合致しており、引き続きこれを支持します。
気候変動関連の法令への取組み
当社は、国の気候変動に関連する法規制(省エネ法や温対法等)や政策を支持し、年1回、行政へエネルギー使用量、省エネルギー目標の達成状況、温室効果ガス排出量の報告書を提出しています。